ヘッド左右慣性モーメント

ゴルフクラブヘッドのヘッド左右慣性モーメントとは

オフセンターヒット時の許容範囲を示す数値

「ヘッド左右慣性モーメント」とは、インパクトの瞬間に、重心(スイートスポットまたは芯)を外れて、ボールをヒットしてしまった時に、どれだけ許容範囲が広いかを示す数値です。「ヘッド左右慣性モーメント」の大きいヘッドほど、重心を外したときの許容範囲が広く、飛距離のロスや方向の狂いが少なくて済みます。

ヘッド左右慣性モーメントとは


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ゴルフクラブにおける慣性モーメントは何種類かあります

ゴルフクラブにおいて、「慣性モーメント」という単語は何種類かの意味で使用されますが、単に「慣性モーメント」といった場合には、ヘッドの内部にある重心点を貫く垂直線を中心軸としてヘッドを回転させた場合の「ヘッド左右慣性モーメント」(このページで説明をする慣性モーメント)を指すことが一番多いです。

「ヘッド左右慣性モーメント」と「ネック軸周り慣性モーメント」

重心距離のページでネック軸を回転の中心とした「ネック軸周り慣性モーメント」をご説明していますが、あちらの「ネック軸周り慣性モーメント」と、このページでご説明する「ヘッド左右慣性モーメント」は、同じ「慣性モーメント」でも位置づけが異なります。

重心距離のページでご説明した「ネック軸周り慣性モーメント」は大きすぎると球が捕まりが悪くなるという弊害を生みますが、このページでご説明する「ヘッド左右慣性モーメント」は大きければ大きいほど良いです。ただし現実問題としては、「ヘッド左右慣性モーメント」が大きいヘッドは「ネック軸周り慣性モーメント」も大きいケースがほとんどです。

ヘッド左右慣性モーメントの測定方法

ヘッド左右慣性モーメントは、「慣性モーメント測定機」と呼ばれる、写真のような特殊な機械を用いて測定されます。

慣性モーメント測定機


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市販ゴルフクラブのヘッド左右慣性モーメントの平均値

市販ゴルフクラブのヘッド左右慣性モーメントの平均値は、以下の通りです。

  • 2010年~2012年に市販された主なドライバー271モデルの平均値・・・4288 g・cm2
  • 2007年~2009年に市販された主な3番ウッド83モデルの平均値・・・2771 g・cm2
  • 2007年~2009年に市販された主なユーティリティー56モデルの平均値・・・2451 g・cm2
  • 2010年~2012年に市販された主な5番アイアン251モデルの平均値・・・2455 g・cm2

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ヘッド左右慣性モーメントに関するルール

ルールブックには、「クラブを60度のライ角度に据えたときに、クラブヘッドの重心を通る垂直軸周りの慣性モーメントは5900グラム平方センチメートル+テスト許容誤差100グラム平方センチメートル以下でなければならない。」と書かれています。

ゴルフクラブメーカーは、当然このルールを知っているので、ちまたで販売されているゴルフクラブが、このルールに抵触することは、まずありません。






そもそも「慣性モーメント」って何?

物理学的に、慣性モーメントとは、物体の回転のし易さを示す数値です。慣性モーメントの大きな物体を回転させるには、大きな力が必要で、慣性モーメントの小さな物体を回転させるには、小さな力で済みます。

大きくて重い物体は、慣性モーメントが大きいので、回転させるのが大変です。小さくて軽い物体は、慣性モーメントが小さいので、回転させ易いです。直径5cmのコマと直径50cmのコマを想像してみてください。直径5cmのコマを回転させるのは簡単ですが、直径50cmのコマを回転させるとしたら大仕事です。

オフセンターヒット時の許容範囲を示すヘッド左右慣性モーメント

クラブヘッドという物体に、ゴルフボールという物体が衝突した際に、フェース上の重心以外のところにボールが衝突すると、クラブヘッドという物体を回転させようとする力が働きます。

このとき、ヘッド左右慣性モーメントが大きいクラブヘッドであれば、ヘッドは回転し難いので、回転は少しで済みます。ヘッド左右慣性モーメントが小さいクラブヘッドであれば、ヘッドは回転し易いので、たくさん回転してしまいます。

この回転の量が少ない方が、飛距離のロスやボールの方向の狂いが少なくて済みます。従いまして、ヘッド左右慣性モーメントが大きい方が、ミスの許容範囲が広いのです。






ヘッド左右慣性モーメントの特徴

ヘッド左右慣性モーメントの大きいヘッドの方がやさしいということは分かりました。では、どのようなヘッドならばヘッド左右慣性モーメントが大きいのでしょうか? ヘッド左右慣性モーメントの特徴を見てみましょう。

特徴その1:ヘッドの体積が大きいほどヘッド左右慣性モーメントは大きい

ドライバーとフェアウェイウッドとユーティリティー、全866本を対象にして、ヘッド体積とヘッド左右慣性モーメントの関係をグラフにしてみました。

ヘッド体積と慣性モーメントの関係

ヘッド体積が大きくなるほど、それと比例するようにして、ヘッド左右慣性モーメントが大きくなっているのが分かります。だから、ドライバーの体積は、時代とともにどんどんと大きくなっていったんですね。






特徴その2:重量がヘッドの中心から遠くに配分されているほどヘッド左右慣性モーメントは大きい

同じ重量のヘッドの場合、重量がヘッドの中心から離れたところに(つまり外側に)配分されていれば、ヘッド左右慣性モーメントは大きくなります。

アイアンヘッドの場合を考えてみましょう。マッスルバックのアイアンヘッドとキャビティーバックのアイアンヘッドの形を比べてみると、マッスルバックのアイアンヘッドよりも、キャビティーバックのアイアンヘッドの方が、重量が外側に配分されていますね。だから、キャビティーバックのアイアンの方が、ヘッド左右慣性モーメントが大きいのです。

マッスルバックとキャビティ-バックの慣性モーメント

ポケット構造や中空構造のアイアンヘッドでは、キャビティバックのアイアンヘッドよりも更に重量が後方(バックフェース側)にも多く配分されていますね。このため、ポケット構造や中空構造のアイアンヘッドは、キャビティバックのアイアンヘッドよりも更にヘッド左右慣性モーメントが大きいのです。

ポケットと中空の慣性モーメント

アイアン形状別ヘッド左右慣性モーメント平均値アイアンヘッドの形状ごとのヘッド左右慣性モーメントの平均値は表の通りです。マッスルバック→キャビティバック→ポケット→中空の順番でヘッド左右慣性モーメントが大きくなっています。

更にドライバーの場合も考えてみましょう。一昔前の200ccのドライバーヘッドと現在の460ccのドライバーヘッドを比べてみると、460ccのドライバーヘッドの方が、ヘッドが大きいですから、ヘッドの中心点からより遠くに重量が配分されていますね。だから、460ccのドライバーヘッドの方がヘッド左右慣性モーメントが大きいのです。


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特徴その3:重心点がヘッドの形上の中心点に近いほどヘッド左右慣性モーメントは大きい

ヘッドの形上の中心点は下の左側の写真で、赤の点線の対角線が交わるところの場所ですね。しかしながら、ほとんどのヘッドの重心点はよりも少しフェース寄りのの辺りにあるんです。

ヘッドを包丁で半分に切ってみると右側の写真のようになりますが、フェース側半分の方がちょっとだけ重そうだということが視覚的にも判ります。フェース側の方が重い分、重心点はフェース寄りになるんですね。

重心深度と慣性モーメント

の位置をもう少し後ろに下げてあげて、の位置まで持ってくると(別の表現をするなら「重心深度を深くしてあげると」)、ヘッド左右慣性モーメントは大きくなります。これを実現するためにゴルフクラブメーカーはいろいろな工夫をしています。例えば、ヘッドの後方のボリュームを増やすためにヘッドを四角くしてみたり、ヘッドのお尻の部分に重りをつけたりして、重心深度を深くして、ヘッド左右慣性モーメントを大きくしようとしているんですね。

下のグラフは、ヘッド体積が430cc以上のドライバー237本について、重心深度とヘッド左右慣性モーメントの関係を示したものです。ヘッドの体積が同じぐらいである場合には、重心深度が深いほどヘッド左右慣性モーメントが大きくなっていることが分かります。

重心深度と慣性モーメントのグラフ






特徴その4:重量を一部分にかたよらせるとヘッド左右慣性モーメントは小さくなってしまう

ヘッド左右慣性モーメントが大きい方がやさしいなら、ドライバーだけでなく、FWもUTもアイアンも全部、ヘッド左右慣性モーメントを最大にしてしまえば良いじゃないか、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

でも、FWやUTやアイアンは芝の上からも打つので、重心の位置が高いと打つのが難しくなります。重心を低くするためには、ヘッドの下の方にたくさんの重量を配分する必要があるのですが、このように一部分だけに重量をかたよらせると、ヘッド左右慣性モーメントは小さくなってしまうのです。大きなヘッド左右慣性モーメントによる「大きなスイートエリア」と「低重心」は両立が難しいのです。

下の2つのグラフは、フェアウェイウッド241本とアイアン408本のそれぞれについて、重心高さとヘッド左右慣性モーメントの関係を示したものです。低重心であるほど、ヘッド左右慣性モーメントが小さくなっていることが分かります。

重心高さとMOIの関係(FW)

重心高さとMOIの関係(Iron)






ヘッド左右慣性モーメントを用いたヘッドの選び方

ヘッド左右慣性モーメントは、大きければ大きいほど良いです。大きすぎて損をすることはありません。ただし、ヘッド左右慣性モーメントを大きくしようとすれば、なんらか他のものを犠牲にする必要があります。

例えば、ドライバーの場合、ヘッド体積が大きい方がヘッド左右慣性モーメントは大きくなって有利ですが、ヘッド体積が大きいと必然的に重心距離が長くなり球の捕まりが悪くなってしまいます。

ドライバーでスライスする方は、ヘッド左右慣性モーメントよりも球の捕まりを優先して、少し小さめのヘッドを選ぶ方が良いかもしれません。あるいは重心深度が深く、重心角も大きいものを選ぶというような考慮が必要です。

また、ヘッドが大きいと重心高さが高くなってしまいます。ドライバーの場合には、ヘッド左右慣性モーメントを優先するなら、ここ一発の飛びが期待できる低重心のものは選べなくなってきます。

FWやUTやアイアンにおいても、大きいヘッドは重心高さが高くなってしまいますし、ヘッドの抜けも悪くなってしまいます。前述の通り、低重心と大きなヘッド左右慣性モーメントは両立することが難しいです。

芝の上のボールを打つFWやUTやアイアンの場合、ヘッドスピードの遅いプレイヤーは、ヘッド左右慣性モーメントを多少犠牲にしてでも、低重心を優先してクラブを選ぶ方が良いと思います。

アイアンを選ぶ際には、マッスルバックはカッコイイのですが、ヘッド左右慣性モーメントが小さいので、やはり難しいアイアンになります。

このように大きなヘッド左右慣性モーメントを求めるなら、他の何かを犠牲にする必要があります。






実際のゴルフクラブの数値

実際のゴルフクラブの数値を数値ページでご参照ください。